knock on wood

日々の記録帳

長い5分間

二週間と少し前にうけた婦人科のガン検診の結果を聞きに行ってきました。

今回のように結果のみ聞く場合(通常の診察でない場合)は先に受付に申し出るように言われています。事実、毎回そうすることで長い時間待たずに先生と話をさせてもらえて助かっているので、今日もそのつもりで「検診結果聞きにきました」と言い、待合室に移動しようしました。ですが何故か今日は受付の人に呼び止められたのです。その受付の女性は「ちょっと待ってくださいね」と言いながら、診察券とパソコン画面を交互に見て、何かを確認したのか受付カウンターからこちら側へと出てきました。そして、「それじゃあ、こちらへどうぞ」と私を待合室とは反対の方向へと促すのです。『あれ?もしかして今日は待ち時間ゼロ?今日空いてるのかな(←待合室を見てないので混み具合がわかっていない)それとも、タイミングがよかったのかな?』などと自分に都合の良い考えばかりが浮かびます。とにかく『お、思った以上に早く帰れるかもしれない』と、ちょっとばかり浮かれながら受付の女性の後をついてゆくと、どうも普段の診察時とは勝手が違う感じ。それもそのはずで、私が通されたのはお医者さんのいる診察室ではなく、その反対側にある小さな部屋だったのです。初めて見る部屋です。正直、それまではこの部屋が存在していることすら知らないでいました。ここは何?と、ドアの上部を見上げてみれば、そこに書かれていた文字は【相談室】だったのです。
【相談室】……その文字を見た時、ほんの一瞬だけ「え?」って思いました。けれど、すぐに自分がガンなんだと思いました。そうでないとしても、検診結果に何か問題があったのだと。だから相談室に案内されたんだと思いました。この部屋まで連れてきてくれた受付の人に「何か異常あったんですかね?」と質問したかったけど、聞いたところで答えてはくれないこともわかってたから(それに答えちゃいけないし)お礼を言ってから部屋の中へ入りました。
柔らかなグリーンをベースにした落ち着いた壁紙と、木目調のテーブルと椅子。ちょっとした人形や絵画が飾ってあったりして、やっぱりこういう部屋は冷静になれるように考えられてるんだなぁ……なんて思いながら、それでも『どうしよう!どうしよう!』って焦る気持ちが一秒毎に大きくなってゆきます。
まず考えたのは、自分の余命です。三ヶ月、半年、一年……どのくらいなんだろう?5月に参加する予定になっているイベントについても、いくつか約束していることがあったために、それを誰に頼もうか?とか。それから、自分が加入している保険のこと。もう一個ガン保険に入っておけばよかったとか。やらなくちゃいけないことを考えつつ、もう一方では「何ができるかな?」という思いもありました。どのくらい生きられるのかわからないけど、私にできることどのくらいあるだろう?とか。
そして、一番悩んだのは、家族にどう伝えるか、ということです。
末期であろうと、初期であろうと、自分はきっと、余命や再発という言葉に怯えながら生きてゆくのだろうと思うと、その姿を見なくてはならない家族はもっとつらいだろうと思いました。できれば味あわせたくない感情です。
「ああ、もう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう……」
なんて頭をかかえたくなるくらい考え込んでいたら、コンコンとドアをノックする音。「来た!」そう思って身構えた私の視線の先にいたのは、医師ではなく、先ほど案内してくれた受付の女性。あれ?と思っていると、また部屋を移動しろと言う。おとなしくついていった先は、外来診察室でした。ああ、やっぱ何だかんだ言ってもまずは診察室だよね、と、半ば諦め気味に入ると、そこにはいつもと変わらぬ表情の先生が。さすがプロだね。医者が落ち込んだ顔するわけないしな。とにかく、この時点で私はすでにガン患者なわけです。あーあ、もうしょうがないよなぁ。覚悟を決めて先生の前に座ると、いつもと同じように、私が受けた検診の説明、それから結果表をパソコンにスキャンして映し出したものを互いに見ながら確認作業へと続きます。
「今年も異常ないですね」
「……?」
「問題ないですよ〜」
「え?」
「えって、何かそんなに心配だった?」
え、だって私……異常があったんじゃ?だから待合室じゃないくて相談室につれていかれたんじゃ?
「あ、えーと」
「そりゃあ検診受ければ、結果聞くまで不安ですよね。でも今年も大丈夫でしたよ」
「本当ですかー!?」
「うん、大丈夫。こっちの超音波の方もきれいだし。問題ないですよ〜」
問題ないですよ〜という、あっけない幕切れに、少々脱力したものの、それまで体中を包み込んでいた不安がパっと消えたのも事実です。何はともあれよかった。安心しました。またまじめに検査受けに行こうと思いました。
でも、今回ほんとうにガンは怖いと思いました。上手く言えないけど、ガンと申告されることは本当に怖い。他の病気よりも何十倍も怖いと思いました。もちろん他にも死に至る病気は山ほどあるし、ガン以上にやっかいな病気も山ほどあって、中には治療法の解明されていない病気もいっぱいあって……患者はもちろんのこと、医者もやるせない思いをしていると聞いたことがあります。けれど、ガンという言葉の重みは尋常じゃなかったです。
早期発見のためという名目で受けていたはずの検診なのに、気が付けばそこに求める答えは早期発見ではなかったりします。どこかでズルをしてでも「異常無し」と言われたいのです。

私は今回、母に何て伝えようかと一番に考えました。今年は大丈夫だったけれど、いずれ本当に伝える時がくるかもしれません。異常無しと言われた今となってみても、やはりどう伝えていいかわからないのです。

相談室に通され、診察室に連れてゆかれて「異常なし」との判決(?)を受けるまで、時間にして5分程度だったと思います。後から考えると、私を待合室に通さなかったのは、早い時間から待っている他の患者さんへの配慮だということもわかります。そりゃあ後から来た私が先に呼ばれたら気分悪いもんねぇ。けれど、あの相談室での時間は、短いながらも自分の人生を考える長い待ち時間でした。
なんとか今年の検診を終えた今、「ほっとしたよー!」という気持ちのまま飲みに行きたいとも思いましたが、同じくらい甘いものも食べたくて、帰りにモスバーガーの玄米シェイクを食べて帰りました。